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流域圏再生PJ日野水路再生WG研究会

日時:2008年7月24日(木)17:00〜19:00
場所:法政大学小金井校舎第1会議室 

 

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「農村地域の内発的活性化における参入者の役割と意義について」
千賀裕太郎(東京農工大教授)

□日本の農村の置かれた状況
 現在日本の農村の過疎化と老齢化は深刻な状況である。背景には市場原理主義とアメリカの影響下、自由貿易優先で、工業製品の加工貿易促進、農産物の輸入自由化、農業生産の「選択的拡大」政策などがある。米をつくっても時給300円程度でペイできない。小泉政権による規制緩和で福祉・医療、教育・文化、行財政・税制、経済・政治の都市と地方間の格差も拡大した。また日本社会に根強い都市優位(中央)、農村劣位(地方)の文化的風潮がある。自然保護をやっている人もそのような錯覚をもつ人がいるという印象であり、根深い問題である。
 農地面積は1961年に608万haあったものが2005年には469万haと23%の減少で、作付面積では46%の減少である。農家一戸当たりの耕地面積を比較すると日本はEUの1/9、アメリカの1/99、オーストラリアの1/1881である。経済界では同じような競争力をというが無理なことは明らかである。農業従事者の動向は販売農家戸数が2005年では196万3000戸で10年前より69万戸の減。5年前より37万戸で減少スピードがアップしている。新規就農者は2005年は約8万人で、その内51%が60歳以上。一方都市住民も決して幸せではない。労働条件の悪化、所得格差の拡大、都市の過密人口と生活条件の悪化などから農村への移住の希望は増大している。ただし、住宅と仕事があれば。また、都市内・近郊における農地保全の要求は大きくなってきている。にもかかわらず、農山村の過疎化は進行し、「限界集落」が増えている。それは、移住希望はあっても、各地域でも外部からの参入を受け入れる条件が乏しいから。職場がない、農産物の価格は低く、経営規模は小さい。農業だけでは所得不足。食べるだけなら何とかなるが、教育費、医療、福祉など現金収入が必要になる。また農地、農業機械、農業用家屋、営農技術、資本金、相談相手、仲間を得るための初期コスト・時間など「就農コスト」が大きい。これらの支援策が不十分である。
 それではどうすればいいか。ヨーロッパなどのように国、地方自治体、集落が「補完性原理」に基づいた関係に再編成する必要がある。

□内発的活性化
 農村は「内発的発展」の推進を基礎に、地域の自治・経済的自立の向上が重要。地域資源を活用し、農業生産(第1次)、加工業(第2次)、流通業(第3次)を合体した総合産業(第6次産業)として、集落レベルから補完性原理で市町村、流域、県レベルで地産・地消圏を運営し、都市・農村の交流により、農村の発揮する「国土保全」「自然環境保全」「水資源保全」「文化・教育環境保全」「バイオマス資源保全」などの公益的な「保全価値」への支払い意志の醸成と実際の支払いが必要である。
 内発的地域活性化とは、外からの押し付けでなく、他地域の模倣でなく、地域にある資源を活用して、地域の個性的な自然や文化に依拠した、他地域(都市住民)の人とも協力しつつ、計画策定から実施・利用段階まで地域住民が主体的に参画する、持続的で健全な地域形成のあり方である。その可能性と課題には、農村には、都会にはない多彩な地域資源があること、それに依拠した地域活動やビジネス展開を図れば、決して内発的活性化は不可能ではない。そこで主な問題の一つが過疎化・高齢化、混住化が進む農村地域で、「どのような人材をどのように確保するか」という人口論的課題である。
 内発的活性化における「人材」の確保は、1、内発的活性化が、その本質的性質から「人の活性化」を促し、人材を育てるものとなる。2、「計画づくり」のプロセスは、「地域学習」のプロセスとなり、住民の「参加拡大」と、住民「リーダー育成」を図ることができる。3、地域活性化のプロセスに、住民が自発的・意欲的に参加するには、達成感、満足感、幸福感が必要であり、成功体験(失敗を克服しつつ)の蓄積が必要。4、ある種の「ドラマ性」を有する地域活動全体を企画・運営する「リーダーグループ」が必要。

□ 内発的活性化という「ドラマ」
 内発的活性化の事業は「地域」を舞台にした地域住民が制作するロングラン「ドラマ」。地域の暮らしと稼ぎ、育ちと老い、自然と文化の望ましい姿を皆で描き、5年、10年、100年後の目標達成に向けた課題と可能性を把握し、成就へのプロセスをデザインする。ドラマの役回りに(1)制作責任者、(2)俳優、(3)監督・演出家、(4)脚本家、(5)事務局員がある。(1)と(2)は地元住民が担当は必須。(3)、(4)、(5)は参入者が可能。計画作りは俳優が参加しながらつくる形がいい。元気なまちはリーダーがいるとかリーダーがいたからできたとよく言われる。そのリーダーがどんな役割を果たしたか、どんな来歴をもち、どこで資質を得て、どんなリーダーシップを発揮しているかの分析が十分でない。(1)のプロモーター、プロジェクターは地域における最高責任者。人物として信頼性のある方。事業に正当性を与える内部合意形成、資金確保などの体外交渉代表。(2)のアクターは活動主体であり、住民個人、学校、企業、農協、町役場、各種団体、趣味サークルなど。(3)の演出家は事務局長。計画書の作成段階にはじまり事業展開の全プロセスにおいて活動を組織立て、具体的に事業進行をコーディネイトする。この演出家としての能力には独特の経験や感性が要求され、これにふさわしい優れた人材が小さな社会集団の中で見出されるとは限らないので参入者が活躍できる。もちろん地域へのレスペクトが持てる人。(4)の脚本家はNPOでは地域づくりでは計画家であり、地域活動の企画提案が主たる業務。地域の課題、内在する地域資源、需要者のニーズ、制度的な支援施策などを客観的に把握して、ソリューションとしての地域発展計画を描く。地域情報把握の客観性と鋭敏なセンス、短・中・長期の予測能力が求められるため、客観的視野と豊富な実践経験を有する参入者に期待がかかる分野。(5)の事務局機能としては記録、経理、広報・宣伝を含む、活動全体を進める事務的作業を担う。これらの役割が揃うと値域活性化はうまくいく。一人で何役もやる場合もあるが。

□ 土地制度の貧困
 根本的な問題として「土地本位制」の悲劇がある。これは歴史的にも根が深く、ゆがんだ風土の源泉である。

 

 

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