Session 1
「水上集落の生活空間と環境-サンダカン・コタキナバルにおける民家の空間構成と生活環境」
プログラム
プレゼンテーション(法政大学 永瀬研究室)
1. 水上集落の発生起源と背景
福田 綾 Aya FUKUDA(法政大学建設工学科M2)
2. 水上集落のロケーションと配置形態
小川修佑 Shusuke OGAWA(法政大学建設工学科M2)
3. 間取りなどの具体的な空間構成とその特性
宮坂伸平 Shinpei MIYASAKA(法政大学工学部建築学科4年)
4. 水上集落のメリットとデメリットによる特徴
岡澤毅 Takeshi OKAZAWA(法政大学工学部建築学科4年)
5. 伝統集落の展望
永瀬克己 Katsumi NAGASE(建築家、法政大学教授) ディスカッション
上記5名の他、猪野忍 Shinobu INO(建築家、法政大学講師)、山崎勝哉 Katsuya YAMAZAKI(アーバンデザイナー)、大古場稔
Minoru OKOBA(法政大学建設工学科M1)
(概要)
1.水上集落の発生起源と背景
海上生活者発生の要因として近年の学説を元に氷河期に東南アジアに存在したというスンダランドの水没の影響があるのではないかということを取り上げた。その上でマレーシアに見られる(1)いかだの上に住居を建てるタイプ、(2)杭上に住居を建てるタイプ
、(3)漂海民の家舟、これらの内、杭上住戸と漂海民の住む家舟に着目、杭上住戸の平面と舳先から停泊した時の家舟の平面構成の類似性を抽出した。 また両者が似通った家族構成をしていることや政府の定住化政策といった政治要因、そして経済、宗教といった観点から杭上住居は家舟生活者が定住した姿ということが出来るのではないかと推考した。(図1
Simsimの集落)
2.水上集落のロケーションと配置形態
現地調査以前に行われたグーグルアースの情報をベースとした事前調査の報告で、衛星写真の情報を元に集落の分布、形態を調査し分類を行った。分析に際しての方法は、まず集落のトレースを行い、各集落の戸数やジャンパバタン(桟橋)の伸び方の確認、集落の構成要素を洗い出すとともに、集落外施設の有無と確認などを行った。この調査が後の現地調査のベースとなったが、グーグルのデータが数年前のものであり、実際の集落の配置との不整合点が多く見られたことも報告した。(図2 Kota
Kinabalu 配置図)
3.間取りなどの具体的な空間構成とその特性
サンダカンとコタキナバルで行われた計10軒の実測データを元にした分析結果を報告した。民家間を繋ぐジャンバタンの特性や住居内各部屋の利用形態と位置づけを説明、特に重要な場であるリビングの多機能性や表と裏の概念、二つあるベランダの違いについて詳しく説明を行った。さらに水上住戸と陸上住戸の事例を抜き出し比較することで、その利用形態の変化の方向性について考察をした。
4.水上集落のメリットとデメリットによる特徴
水上集落のメリット・デメリットそれぞれの報告を行った。
メリットは、まず水上にいるという心理的影響と上下左右から吹く風の心地よさによる快適さがあったということ、次には家が壊れたときにすぐに自分たちで修復、建て直しができることを上げた。水上集落は基本的に木造で、基礎打ちから住居づくりまで住んでいる家族たちで建てるので、壊れても自分たちで修理できる技術をもっていること。また、増築も容易であり家族形態にあわせた増減利用が見受けられた。そして海産物など食料確保の容易さが上げられた。
一方デメリットでは、ゴミ、火災、高波の三つが深刻な問題として取り上げられた。ゴミについては集落の端部、陸と接する部分には必ずゴミのたまり場が確認できた。これは、現地の人々にとって不要なものは海に捨てるという習慣があり、以前であれば自然の循環の中にうまく取り込まれていたが、それが出来ない物質−プラスチック系のゴミが生活に入ってきたことで分解されることのないゴミが波に打ち上げられ、岸辺にたまるという問題が出ていた。これにより美しい景観が崩れているので、埋め立ててリゾート地にするという計画があることが示された。
続いて火災については、集落自体が家からジャンバタンに至るまで木で作られていることと、風通しがよくできているため延焼しやすく、数十件規模の大きな火災になりやすい。そこで炭火の使用禁止といったことがなされているが、未だ有効な手立てが見つかっていないのが現状である。火災対策として考えられるRC造への転換についても、RC造が被害を受けた場合、集落内には重機が入れないので撤去が難しく、再建が難しい面があることを示した。
高波被害については潮流の影響が大きいので外洋に面したコタキナバルで頻繁に起こっていること、構造が脆弱であるため波により基礎ごと持っていかれ倒壊するという被害がでている。これまで住人は、木造住居の再建が容易なため、壊れたら直すということで対応してきたが、家財道具が増えるにつれてRC造への関心が高まってきているようである。
5.伝統集落の展望
以上を踏まえて、これからの水上集落の今後の展望を報告した。
ボルネオ島の水上集落は、圧倒的なパワーをもって川や海の際に沿いながら存在している。どのような経緯でここまできたのか、資料が少なく不明なことが多い。現在、グローバル化や都市化の進行は、じわじわとこれらの集落にも迫っている。よって今後集落は、どのように展開してゆくのか陸との関係をふまえて考えたい。そして「伝統的集落の共通項は遺伝子として残るか」と題して次の諸項目を考察した。
1.インフラとしてのジャンバタン(桟橋)(図3 Simsimの例)
2.水上に住むこと
3.住居の平面形態(舟から家への基本形)
4.水上生活環境における小循環の生活形態と陸との関係
以上4点の共通項について、今後の存続の可能性について語った。
さらに現地の水上集落関連の計画事例としてサンダカン都市開発局による水上集落住民移住プロジェクト―ティノーサI,IIの説明を行った。無法地帯、非衛生を理由とした行政によるスラム開発の状況と陸上に計画されたティノーサIと水上に計画されたティノーサIIの比較がなされた。またコタキナバルにおいて、現在、桟橋の恒久化として、PC杭への転換事業が行われている。(図4
KotaKinabaluの PC杭桟橋工事) |