「東京ベイエリアにおける倉庫経営の新たなる可能性」
池田浩大(東京倉庫運輸株式会社 取締役)
倉庫業の大きな特徴として、3つあげられる。第一に、倉庫業とは社会のインフラであり、古くは弥生時代から米蔵として倉庫は存在しており、以後、それぞれの社会の変化に対応しながら存続してきた。第二に、倉庫業は第3次産業に属する、サービス業ということである。第三に、倉庫業は時代と共に変わっていく産業であるということであり、現在は外資などに対応していかなければならないという使命を抱えている。
多くの倉庫がある芝浦地区は、埋立によって現在の姿が築かれた。いくつもの運河がめぐり、運河まつりなど運河を前面に押し出したまちづくりが展開されている。交通の利便性もよく、新旧の建物が混在しているのが特徴である。そして、物流施設が多く存在し、六本木ヒルズなどとともに港区ブランドのひとつとして芝浦は存在している。
そうした特徴のひとつである倉庫が、いま変わりつつある。既存の倉庫をコンバージョンし、新たな空間へとつくりかえる(リファイン)のである。
倉庫リファインの特徴は、既存倉庫の強固な躯体、床荷重、天井高、柱間隔のある魅力的な大空間(ユニバーサルスペース)を活かし、e-sohko.comのテナント情報をもとに、現在のマーケットニーズに適した建築物へと用途を変えるリニューアル(リファイン)を行うことにより、既存倉庫物件のバリューアップ(収益率・資産価値)をはかることである。
倉庫リファインの参考事例をいくつか示すと、まず国内では、小樽運河や横浜の赤レンガ倉庫などが挙げられる。また、かつて1990年代前半を彩ったジュリアナ東京もまた倉庫をコンバージョンしてつくられたディスコであった。現在では、ディスコの設備をそのまま使い、スポーツショップに転用されている。海外の事例では、ニューヨークのDUMBO(ダンボ)プロジェクトがある。マンハッタン橋のすぐ下の地域が、近年注目を浴びている。マンハッタンの地価急騰により、アーティストたちがこの界隈に移り住んできたのがブームのきっかけとなっている。交通の便もよく、また眺望もいい場所であり、現在では、お洒落なショップ、カフェ、ギャラリーなどが続々と開店してきている。倉庫を改造したアパートのビルが多く、多くのアーティストやミュージシャンが住み、創作の場所として活動の拠点が形成されている。この場所は、そもそも海運で発達したが、海運が衰退し、陸運へとシフトしていく中で、産業遺産へとなりつつあった港湾施設をコンバージョンし、アートのまちへと発展していったのである。アーティストが集まり、アートによるまちづくりが行われることにより、多くの人々が訪れ、それによりまちもどんどんと活性化され、流行の最先端のショップが並ぶようになった。近年では、さらに、ITとアートが結びついたベンチャー企業も入ってきている。
ところで、倉庫の賃料は、他のオフィスビルなどよりも安い。もともと倉庫をオフィスビルにしようなどという発想はなかったが、近年クリエイティブな人々が目をつけ、安い賃料で大きな空間を使える特徴を活かし、倉庫をコンバージョンして使用するようになってきている。
そもそも、倉庫の経営は、オフィスやマンションの経営と考え方が全く異なる。オフィスやマンションは、場所があり、建築をつくり、それからテナントという考え方であるが、倉庫の場合は、まずはテナントありきで、テナントの要望にあわせて建築を改変していくという考え方にもとづいている。つまり、倉庫は、こういった空間がほしいといったテナントに合わせて、倉庫をコンバージョンして提供するのである。それにより、世界にひとつしかない空間が出来上がるのである。経済的にみても、オーナー側にとっては、倉庫をコンバージョンすることにより、自分の倉庫の資産価値があがる。一方、テナント側にとっては、コンバージョンにより賃料があがる仕組みで成り立っている。とはいえ、それでも周辺のオフィスビルと比べると半分ぐらいの賃料で使うことが出来、双方にとってメリットがある。
最後に、これからの芝浦地区の未来像として、人・建物が新旧入り混じりながら共存していく必要がある。そして、芝浦の資産でもある運河を利用した船によるまちづくりや、行政と企業が一緒になり、他のまちとの差別化をはかりながら、芝浦らしいまちづくりを展開していくことが欠かせないのである。 |
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[倉庫リファインの事例1(倉庫→クリエイティブ・オフィス)] |
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[倉庫リファインの事例2(倉庫→ダンス・スタジオ)] |
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[倉庫リファイン計画] |
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