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国際シンポジウム
「アジアの都市再生IV−ラオス・ビエンチャンとルアンプラバン−」

日時:2007年7月21日(土)13:00〜17:00
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス80年館7階会議室

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「ラオスにおける都市保存の共同体開発とその方針」
ダサック・オウセンタパンヤ(ラオス国立大学建築学部教授)

 まず、都市開発の概念について。開発と一言でいっても人によっては色んな意味をもっている。人によっては都市開発というのはGDPという経済的なものを表すという人もいれば、開発というのは都市に住んでいる人の幸せだと考える人もいる。
 都市開発と言うと都市のアイデンティティを保存すること、それと文化的な習慣、文明を保存することになる。要するに都市開発とは、その都市に住む人が豊かな文化の中に生活をすることが本当の意味である。
 ラオスでは政府の開発方針は、いわゆるバランスを保ちながら開発することである。経済的な開発と社会的な保存を同時に開発させること、限られた資源を有効的に活用することである。
 次に、保存というのはどういう意味を持っているのか。
 私は、ただの建物の外側を保存するためではなく、あるいは価値のあるものだけではなく、保存するというのは浅い意味と深い意味を持っていると考える。深いというのは外壁の目で確認できるものに示している。活動的記録に残る保存である。そして、一般的に浅い保存というのは、開発する手段に使われている。経済を発展させる、そして、深い意味では、記憶をとるための保存である。世界の成功した文化を記録することである。それは、開発の目的に達したことである。
 開発と保存の関係をみていくと、まず、ゲルリッツという中世ヨーロッパの重要な都市である。この都市はドイツに位置していて、政府は都市を保存することに力を注いでいる。実はこの都市の建物はとてもいい状態に保存されている。しかし、この旧市街地の三割の建物は放置され使用されていない。住民の大半はよその町に移ってしまい、この町は経済的な機能を失ってしまったのである。そしてもうひとつ、イタリアのとても古い都市であるシモーナという町である。環境保存はとても力を入れていて、いい状態に保っている。しかし、若者は、もっと都会のところへ勉強するため、仕事をするため出て行ってしまった。そして、ベトナムの中部のホイアンという町、この町は港町で、商売する町であった。現在この町は世界遺産に登録されている。現在は観光地として色んな開発が進んでいる。その住民の生活や活動は昔のまま残っている。ホイアンは毎日たくさんの観光客が訪れているが、この町の景観や住民の生活習慣は壊されていない。逆に観光客がその町に活気を与えることになる。しかしこの町の抱えている問題というのは二次的に、共同的な開発が問題となっている。この世界遺産に建物を建てることをみると、あまりにも規制が緩いのである。景観を壊すような建物がどんどん建てられている。その他にも、環境汚染、大気汚染の問題が挙げられる。ホイアンは最近15年、町のごみ業者に手に負えない位ごみが増えている。政府は住民の田園を壊し、ごみの保管所を作るほどである。
 そしてラオスの都市、世界遺産ルアンプラバンである。ルアンプラバンはラオスの北部に位置し、メコン川とナムカーン川のぶつかったところに位置している。ルアンプラバンはラオスの古都で、建築的にはフランス植民地時代にフランスの影響を大きく与えられている。ルアンプラバンは世界遺産に登録される三つの理由がある。一つは都市の構造、二つ目は建築、三つ目は自然環境にある。ルアンプラバンの都市保存は、都市構造を保存することに重点的にある。2006年10月ルアンプラバンの都市保存について、ワークショップを開いた結果、観光を開発することによって建物の保存にもいい影響を与え、住民は収入が上がっていることがわかった。 しかし、観光業者の投資によって、市民の建物は、ホテルにレストランなど、観光に使われる施設に変わっている。一番心配されているのは物理的なものではない文化遺産にある。観光事業で開発することにより保存地区に住んでいた住民が他のところに移り、新しく入ってきた人は、ルアンプラバンのコミュニティには参加していない。このことによってラオスの中心的な宗教の町、農業の都市であったルアンプラバンは、観光地になって、町の経済活動を変えたのである。ルアンプラバンはただの外的な保存をしているが、まち本当の価値のあるものは少しずつ失われている。観光開発によってどうすればそのようなことを軽減できるのか。町のバランスを保つためには、都市の土地利用をどう保てばいいのかという問題に対し、我々は価値のある文化的な生活、本質的な価値を保存するために、ミックスな都市利用をすることによって証明したいと考えている。新しい文化と古い文化を一緒にミックスすることで町の多様性を増やすことが出来るのではないだろうか。コミュニティ的な開発で住民が参加でき、いい収入をもらえることが出来れば住民が他の町にでていかなくて済むのである。そして自分たちの、コミュニティを保存することができるのではないだろうか。コミュニティ的な観光は、住民の力で開発する観光、ただ住民の収入を増やすことではなくて、観光客が住民の生活を味わえることが出来、そして、コミュニティの作り物を推進することとなる。自分がスタディしたルアンプラバンを含めてそういうことがわかった。基本的な保存は、外的な保存と経済的な保存。一般的には観光と深くかかわりがある。しかし、それは観光客を呼ぶためのものではない。次の目標は、住民の生活習慣を保存することである。古い町を保存することは、我々にとってもとても興味の深いものである。
 外的保存があった後、開発は観光地の本当の意味を保存すること、そして最終的には二次的に保存することにあり、重点的に保存することはただの外側の保存である。我々はまだ外的と内的の保存には資金が不足している。
 コミュニティを開発するために、どうすればフレームワークの開発をできるのか。文化的、経済的、社会的、そして環境を保存し、資源をふやすことが二次的に成長するために、人を建築を、都市の環境共同できることを、どうすればいいのか考えていく必要がある。

「ビエンチャン 都市再生の諸問題---時間・人々・スペースの関係性」
スーカン・チッタパンヤ(ラオス国立大学建築学部主任)

 ビエンチャンは、1560年以降、ランサーン王国(現ラオス)の首都であり、メコン川の川岸に位置する都市である。ビエンチャンの都市再生を、形態学的、社会論理学的、哲学的といった様々な視点から検討したい。
 形態学的には、時間に注目する。ビエンチャンの都市組織は、様々な層の組み合わせによって構成されている。伝統的な集落パターンの上に、クメール王国や中国の影響も加わり、都市美化運動の影響を受けたフランス植民地時代の都市化、さらに近年の再開発により形成された層が重なっているのである。その都市遺産や建築遺産という資源を通時的な都市の記憶として考えたい。それは、古代要塞の城壁跡や運河といったマクロレベルと、オープンスペース、街区、建物といったミクロレベルまでを含む。また、都市計画と設計を行う上で考慮すべき都市遺産と建築遺産の重要性について考えていきたい。
 都市構造をルアンプラバン、チェンマイ、スコータイ、アユタヤ、バンコクの都市と比較すると、タイのチェンマイとスコータイは四角形の城壁を持っており、これはクメールの影響を強く受けていると考えることができる。また、ビエンチャンへ首都を遷都した王は、その前にチェンマイの王様であったことから、都市計画の考え方は影響を受けていると推測できるのである。具体的にビエンチャンとチェンマイにどういう共通点があるのかは今後の課題として見ていきたい。
 ビエンチャンが首都になるとメコン川沿いに王宮が築かれ、王の祈りの場所としてホーパケオというお寺が周辺に建てられた。他の多くのお寺も王宮の周辺・メコン川沿いに建てられ、その周りに集落ができていった。空間構成に注目すると、ビエンチャンのほとんどの建物が同じ方向を向いて建てられていることがわかる。ラオス人は川沿いに暮らしているので、空間認識も川に因って捉えられている。川の上流方向が北であり、下流方向が南である。畑のある方向が東であり、港がある方向が西である、というふうに使われている。川の流れは空間認識、そして形成に大きく影響を与えているのである。ビエンチャンでは南東方向にメコン川が流れているので、建物も同じ方向を向いて建てられている。
 次に人々の生活を通して、社会学的な視点から都市を検討したい。ラオスの伝統的な集落にはコモンスペースが多く見られた。人々はそこでコミュニティを形成していたが、生活様式は変化し、建て替えや開発が進み、コモンスペースとしての空間は徐々に失われてしまっている。共同体の強い伝統的生活から、ビジネス指向への生活様式の変化が、都市の社会生活にどのような影響を与えたかについて辿っていきたい。子供が描いた絵を参考に、子供がどういう風に考えているのか、人間関係を良くするためにはどういう空間を求めているのかを知り、これからどう開発していけるのか、人間と空間の関係も研究課題である。
 最後に、スペースの関係性では、地区、小道、ランドマーク、結節点、エッジといった都市デザインの要素が、一方では都市空間の結合性と持続的成長のための計画、他方では場所のアイデンティティと都市の社会文化的価値の創出、維持において、どのように役立つのかについて考えたい。
 1960年代のビエンチャンの航空写真を見ると、もともとの城壁がはっきりと見え、フランス植民地下における都市化の影響でメインストリートが造られていることが分かる。メインストリートのランサーン通りはメコン川から垂直に、フランスのシャンゼリゼ通りを模して造られている。ランサーン通りにあるパトゥーサイは戦没者の慰霊碑として1960年から建設が始められたもので、これもまたフランス凱旋門を模したのではないかと考えることもできる。また、街区構造のグリッドパターンは中国の影響を受けている。現在、ビエンチャン市内には公共空間はいくつかあるが、郊外の村には造られていない。また、ビエンチャンのメコン川沿いにも未開発部分が残っている。
 どうして公共空間は必要なのだろうか?その空間は人間関係をつくる装置となるからだ。だから、空間の結び方は都市計画において考慮すべき点なのである。
ビエンチャンの中心部にあるパトゥーサイ公園は三つの通りが交わるところに位置するが、設計したときには、こういう通りの交わり方は考えられなかった。パトゥーサイ公園からメコン川方向のエッジにはウォータータンクやコミュニティタワーが見える。パトゥーサイからタットルアンストゥパ方向を見ると、車や建物がたくさんあるなど、空間の使い方が上手くいっていなく、動線がうまくいっていない通りもある。
 通時的に捉え、新旧をどう結んでいけるのか。空間と人間はどう関係を作ることができるのか。都市空間はどうあればいいのか。研究を重ね、議論していきたい。

「ルアンプラバンにおける歴史的環境の保護に対する住民の認識とその影響」
ソムチット・シッチバン(ラオス国立大学建築学部都市環境計画学科副主任)

 ルアンプラバンはラオス北部の中核都市である。14世紀から16世紀までランサーン王国の首都として発展し、その後も独自性を示す伝統的文化、建築、景観が多く残っており、1995年にユネスコ世界遺産に登録された。それに伴い、ラオス政府はユネスコの協力を得て、建築、景観、自然環境の保護に関する規則を設けた。
 しかし、現状はそれらの規定がまだ十分に守られていないと報告され、それが大きな問題となっている。1986年の経済開放政策のやユネスコ登録などにより伝統的な建築の用途は観光のための用途変更や街のインフラ整備、新しい建築物の建設、改築が多く見られる。それら開発のなかで、かつての雰囲気は失われつつある。このような変化の中で、いかに伝統的文化、建築、景観を保存するかが重要である。今後の政策として、住民の認識や参加が大きな課題になるだろう。
 これまで、ルアンプラバンの歴史的遺産保存地区での保存などに関する住民の認識を把握することで、CGによる住民への景観シミュレーション適用性調査するとともに、その調査結果を分析し、その結果による現地区住民へのイメージ調査を実施してきた。今後の広報活動政策の検討のための手がかりを得ることを目的としている。
 ユネスコ及びラオス政府が実施しているルアンプラバンの歴史的遺産保存地区整備事業として 1.保存規則(PSMV)による建築指導 2.地区計画の策定と開発整備工事の実施(道路、排水、街灯)3.歴史的遺産保存地区に関する広報活動 4.伝統的建築物の修理、修復(主として寺院建築物など)がある。
 保存規則保存及び価値の維持に関する実施計画を意味するPSMV (Plan de Sauvegarde et de Mise en Valeur)が2001年に実施された。PSMVは全第1部は概要、第2部は規則、第3部は事例及びガイドライン、第4部は登録建物のリスト、の全4部である。地域内は4つにゾーニングされ、Ua地区は,カーン川とメコン川に囲まれた部分で、Ub地区はその南側、カーン川右岸とメコン川右岸で、M地区は伝統的寺院地区、N地区は自然・風致地区としている。ここでUa地区は特に古くから町の中心であり、多くの重要な文化財,伝統的建築物などが残されているエリアである。ここでは、行政による開発整備工事やユネスコによる整備・修復工事が進んでいる。
 CGによる景観シミュレーション適用性調査は、現状写真・現状CG1・保存規則によって改修したCG2の3つの画像について、被験者が受ける心理的印象の違いを調べる。調査では、ルアンプラバンにおける5ポイント・15枚の画像を被験者に示し、その画像から受ける印象について回答シートにある20項目に記入するよう依頼した。
 PSMV保存規則に従って改修した状態を示すCG2は「静止」のほうあり、CG2に対して「落ちついた」印象を与えていると考えることができる。また景観シミュレーションとして、CGの利用は保存規則の適用前後が「静止」と「動き」に明確に識別されていることからその変化を十分に認識できていると考えられる。シミュレーション適用性調査の結果,歴史的建築物の説明は写真を用いるのが良いこと、街並みの改修や将来の景観イメージの説明を行なう際にはCGの利用が効果的であることが示唆された。
 以上の景観シミュレーション適用性調査結果をもとに、住民へのイメージ調査を実施する。 これは写真を用いたアンケートでルアンプラバンのイメージを確認するものと被験者が希望する町並みや住宅を確認するものから構成されている。
写真の選択に関してはルアンプラバンの歴史的遺産保存地区内における特徴的な景観や町並み及び伝統的住宅から最近の住宅までの代表的なものを選定した。
 項目は、1.景観:「ルアンプラバンらしい景観はどれか」2.町並み:「ルアンプラバンらしい町並みはどれか」3.住宅:「ルアンプラバンらしい住宅はどれか」「住んで見たい住宅はどれか」「現在住んでいる住宅はどの写真に近いか」である。実施方法はルアンプラバン市内の写真12枚から最も質問内容にふさわしいと思う一枚を選択させ、その理由をマークさせることで実施したものである。
 それぞれ選択する際の理由として、「ルアンプラバンらしい景観はどれか」では自然、建物の形、「ルアンプラバンらしい町並みはどれか」では建物の形と静かなイメージが挙げられ、「ルアンプラバンらしい住宅はどれか」では高床式の伝統的住宅が一番多く、次はフランス植民地時代 であった。「住んで見たい住宅はどれか」では近年多く見られる輸入材料を用いた擬洋風建築であった。「現在住んでいる住宅はどの写真に近いか」では高床式の住宅が一番多く、次は煉瓦造の住宅で一般に庶民が自分で建設する場合が多いタイプであった。
 住民がルアンプラバンらしいと思っている住宅の調査から保存すべき住宅イメージの共有はできていることを示唆する結果が得られたが、「現在住んでいる住宅」と「ルアンプラバンらしい住宅」と「住みたい住宅」は異なっていることがわかった。
 以上が景観シミュレーション適用性調査と住民へのイメージ調査の結果を分析することで、効果的な歴史的遺産保存地区に関する広報活動政策の検討のための手がかりが得られた。それは伝統的建築形態の保存のための基礎的要件である。
 ルアンプラバンの伝統的建築物には多くの一般住民が生活している。住民の生活水準は低く、衛生的な問題も見られる。伝統文化を保存しなから,住民の生活を向上させることが今後の課題である。また、住民参加型ワークショップや住民と専門家などによる委員会を結成することも必要であり、その活動を支えていくための経済的な支援システムの構築などが重要であると考えている。

 

 

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