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Dutch Water City  〜オランダ水辺都市の歴史と再生〜

日時:2006年9月5日(火) 18:00〜21:00
場所:法政大学市ヶ谷校舎80年館7階大会議室

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「Dutch Water City 〜オランダ水辺都市の歴史と再生〜」
フランシェ・ホーイメイヤー(Fransje Hooimeijer)

オランダの都市計画において水管理は欠かせない。水管理に必要な動力技術は時代とともに変化した。水辺都市に対するデザインの系譜を、その動力技術によって6つに分けて説明する。

(1) Natural water management ( 〜1000):自然を受け入れること
オランダにおける初期のランドスケープは湿地帯に広がる景色であり、水管理も行われなかったため、水の侵食によって大地の形状はつねに変化した。そうした湿地帯に人力によって排水溝を作り、その溝に水を流して土地を乾かすことによって出来た土地がいわゆるポルダー(干拓地)である。
こうしたランドスケープの性格もあって、オランダの最初の居住地は周辺よりも高い場所が好まれた。湿地帯に砂を盛って作られた丘状の固い地盤や、海岸沿いや川沿いにある湿地帯よりも固い地盤の砂丘に、居住地が作られて小さなコミュニティを形成した。

(2) Defensive water management (1000〜1500):自然を切り拓き、守ること
1000年以降、人々は自分たちの領地を堤防や水路を設けながら防衛・開拓し始めた。この時期にはまだ人力が主になって干拓が行われており、干拓地の基本型は水力のルールに基づいて形作られた。干拓地は先ず農業用地として使われたが、その後に都市化される場合は都市組織が農業用地のパターンを踏襲することがほとんどであった。大抵の場合、都市は水際に沿って作られた堤防によって守られていたが、周辺環境によって次のようなパターンの水辺都市が誕生した。堤防(ダイク)上に作られた町(ダイクシティ)やアムステルダムのように堤防(ダム)を築くことで作られた町(ダムシティ)であり、この2つのパターンが一般的だった。その他、小高い丘に城砦が建設されてその周辺に市街地が形成される町(ブルフトシティ)も作られた。

(3) Offensive water management (1500〜1814):新しい水辺都市を作り出すこと
この時期になると、主要動力がそれまでの人力から風車へと移行し、排水を行うために風車による力が利用された。こうした動力の変化は、大きな湖を広大な土地へ変えることを可能にした。世界遺産に登録されているロッテルダム近郊のキンデルダイクでは、風車が何台も立ち並ぶ光景を目にできる。当時、立ち並んだ風車群は隣りあう風車へ水を順々に移動させることで連続して水のくみ上げを人力よりも短時間に行い、大量の水を排した。
また、ヴィレムスタットに代表される要塞都市が出現したのもこの時代である。同時期に爆薬が発明されたことがこうした都市を作ることに拍車をかけた。
要塞都市に限らず、オランダの水辺都市における一般的な拡張の特徴を言うならば、中世期からの都市空間は一般的に高地や堤防近くに作られたが、この時期になると低地に都市空間が作られることになった。特徴としては、排水用の運河を張り巡らせてその間に作られた島のような土地を橋でつなげることであり、いわゆる「ポルダーシティ」が生まれた。ポルダーシティを作るため、排水はもちろん風車で行われ、運河や橋はポルダーシティの空間的特徴を成した。
都市デザインに対する考えも盛んになり、オランダにおける理想都市のモデルがシモン・ステフィンというオランダ人によって生み出されたのもこの時期である。教会や市庁舎といった主要な社会施設が市内で最大の広場に面するように配置され、裕福な市民は運河沿いに住み、それよりも貧しい市民はその背後に住む、という都市構造が考え出された。このシモン・ステフィンによる考えは、「ダッチ・ルネサンス」と呼ばれ、理性的秩序を基本としてモニュメンタルなデザインの上に成立している。しかし、これは他のヨーロッパの大都市の持つ空間性とは異なっていた。オランダ人は平等社会の上で都市生活を行っていたこともあり、パリに代表される他のヨーロッパ都市のようなモニュメンタルな都市計画を作るための予算は、全く考えられなかった。こうしたオランダ人のメンタリティは、水に対する戦いが基盤を成している。
都市を作る際に用いられるスケールは、水管理の際に必要なスケールへとそのまま落とし込んで考えることが可能である。つまり、基本的に水管理を考えることがオランダ水辺都市を考えることなのである。そうして作られた都市空間は、水・道路・建物が一体となるようなものだった。水路が当時は空間的領域を分けており、敷地の間口幅を参考にしながら払われるべき税金が決められた。

(4) Early Manipulative water management (1814〜1886):抑制しようと試みること
この時期、風車の次に登場した動力は蒸気機関である。蒸気機関の利用により、水管理や新たな土地造成においてもさらなる大変化が訪れ、大規模な干拓地を作ることが促進されることになった。
ロッテルダムでは、1854年に「ウォーター・プロジェクト」という計画が実施された。この計画は、ロッテルダムの旧市街の外に2本の新しい運河を作ることによって4つの目標を達成しよういうものであった。
その4つとは、(1)水を一気に流すことで市内の汚水を綺麗にすること、(2)建設のための地下水面を低くすること、(3)公園ぞいに歩道を設けること、(4)裕福な市民が住むための地区を設けること、であった。こうして新しく作られた運河に沿って裕福な市民が住居を構え、その後ろには小さな住宅が作られた。この小さな住宅へは表の運河沿いの建物間の狭い路地によってアクセスが可能であり、主に貧しい市民が住んでいた。こうした運河沿いにおける空間的・社会的差異は、この時期に限ったことではなく現在も見られる現象である。
水路は、豪雨による増水に備えるために貯水空間としての役目を担うように整備され、今でもその役目を果たし続けている。

(5) Manipulative water management (1886〜1990):抑制すること
この時期になると、車の出現や地下水システムの発展によって水路が埋め立てられる動きが目立った。水にとってはまさに受難の時代であり、車は水の「敵」ともいうべき存在だった。アムステルダムやロッテルダムのようなオランダの主要都市では、車の出現によって市内を流れる運河の一部が埋め立てられるケースもあった。
また、その土地自体が持つ特徴が意識されることなく都市化された。そうして生み出された都市空間内では水路は意味を持つ構造が失われる形で存在し始めた。たとえば、1917年にオランダの建築家ベルラーへによって計画されたアムステルダム市南部地区の計画では、道路が重要さを増すように配置され、建物も主要道路を軸に建てられた。これは、17世紀に見られた水・道路・建物が一体となった都市づくりとは相反するものであった。
アムステルダムの例に限らず、この時期にオランダ水辺都市内に作られた水路はそれまでの意味を失い、いっぽうでは道路を軸に建物が配置された。
また、道路に沿って住居が建ち並んで街区ブロックを形成する従来のパターンではなく、より自由な空間配置を持った計画がこの時期に多く出現した。こうした自由な配置計画が実施されることによって、ポルダーなど土地自体の特徴を生かしながら町づくりをするという行為が無視される結果となった。道路構造が第一に考えられ、道路の配置は周辺地域に立つ塔への方向軸で決められるケースもあった。
重要性を持たなくなった水路は、地下水と関係しながら以前よりも縮小され計画されることとなった。水・道路・建物といった構成物は一体となって計画・建設されず、その敷地の形状をも意識されず、個々の空間が独立した形で作られるようになった。こうして水に対する強い意識が薄れていくこととなった。
いっぽうで、水というものを都市空間の中で装飾的に配置する計画も実際に作られた。

(6) Adaptive Manipulative water management (1990〜): 周辺環境を理解し、抑制すること
水にとって受難の時代を抜け、1970年代になると水が都市の快適性にとって重要であるという認識が生まれ、水を意識した都市空間づくりが意識されるようなった。しかし、1980年代のオランダは経済不況に陥っており、水辺空間的に貧しいものを作らざるを得なかった。貧しい水辺空間のデザイン例としては、コンクリートなどのメンテナンスの必要が少なくて比較的安価な部材を使うことによって出来上がったものである。
また、川、海、ポルダーといった各水辺空間において異なった問題や課題が生じた。それは洪水(増水)が一因である。地球温暖化による海水上昇とライン川の増水、さらには多雨と地下水位上昇により、オランダの地盤は沈下の危険性を考えなければならなくなった。
また、雨量と水分蒸発量のバランスにより一年のうち堤防のメンテナンスが難しい時期がある。3月終わり〜7月初めは乾燥のしすぎで堤防が脆くなり、いっぽうで7月初め〜9月半ばは水分を多く含みすぎて堤防が緩くなる。これら2つの時期には堤防が決壊しやすい。
海岸地域における問題は海水上昇や堤防の決壊、ポルダー地域における問題は多雨による増水、川沿いの地域における問題は川の増水や堤防決壊による被害、である。
次に、各水辺空間の課題については以下の通りである。
海岸沿いの地域 
都市と海
ポルダー地域
歴史的水路を蘇らせること
新しい都市空間の確保
戦後に作られた地域の再構成
新しく作られる地域内に貯水空間を設けること
浮かぶ都市づくり
川沿いの地域
都市と川
港湾地区の再構成

海岸沿いの地域
デン・ハーグでは、砂丘地帯をともなったオランダの海岸地域を守るための計画が1980年代に作られ、15年計画で計画を進めていくといったマップが作られた。
デン・ハーグ近くの海岸地域であるスケフェニンゲンでは、海岸に沿って大通りを設けるという案が2005年に出された。
また、海岸線近くに人工島を設けることにより、潮の流れを調整して海岸線へ水が一気に流れないようにする案も出ている。
ポルダー地域
ウトレヒトやブレダといった水辺都市では、かつては港だったというような歴史的水路を蘇らせることにより、都市の再活性化を図ろうとする動きもある。
埋立地を作ってそこに新しい都市空間を設けるという動きもある。アムステルダム市の計画したアイブルグ地区がそれである。アイブルグ地区は水を考慮に入れながらデザインがなされた。地区内を走る運河は排水のためであり、建てられる位置によって高層や低層の住宅が作られている。水辺のデザインに対しても新たな考えが導入され、住民たちが水とともに暮らしを行えるような空間作りが施されている。
ハールレムやデルフトにある地区では、戦後に作られために希少な水辺空間に対する問題を解決しなければならず、戦後に作られた地域の再構成を必要とされた。豪雨による洪水も懸念されるため、地下に埋められたパイプによる排水は今や適当ではなく、パイプの走る場所を水路へと変える案が出された。こうした水路の出現は、その地域に新しい空間的特徴を付け加えるという点でも効果的である。
新しく作られる地域内に貯水空間を設けることの例としては、「リング・シティ(Ring City)」と呼ばれる大規模貯水空間ネットワークのような計画案がある。オランダのH+N+Sランドスケープ建築事務所によって考え出されたこの計画は、より多くの水を溜めるためにオランダ西部のランドスタット圏に大規模システムを持った水の環状線を設け、レクリエーションルートと歴史的都市を結びつけるようにデザインが成されている。
小規模の建物においては、雨水を建物内の冷却効果のために有効活用するような設計デザインも見られる。
また、VINEX (フィネックス) 地域における水の捉え方も目を向けるべきだろう。地域内には水路が多く設けられ、水に沿って異なったタイプの住居が作られている。デン・ハーグ近郊のイエペンブルフ地区では、地区内にもともとあった滑走路が水路へと変えられて地区内の中心的な公共空間を形成している。水辺にはさまざまなタイプの住居が計画され建設されている。
オランダの主要都市では、異なった方法で水が利用されている。例えば、ロッテルダムでは地下駐車場が必要あれば貯水空間へと転換利用が可能という計画が出されて実際に実現されることとなり、現在工事中である。
浮かぶ都市という考えもある。オランダ人にとって水に対する恐怖は確かにあるが、いっぽうで水は身近なものそして親しみを感じるものでもあり、水の近くで生活をすることに魅力を感じる人たちがいることも事実である。
川沿いの地域
港湾地区の再構成を行うために、港湾地区やそこに立つ古い建築物は新しい住居地区を建設するために利用される。河岸は公共空間にとって最適のスペースと変わりうる。
アムステルダムのボルネオ・スポーレンブルグ地区はもともと港湾地区だったが、オランダのWEST8というランドスケープ事務所によってマスタープランが作られて再開発が行われた。マスタープランを作成するにあたり、彼らが参考にしたのがオランダの伝統的な都市空間であった。それは、高密度な街区ブロックとその間に立つ大きなスケールを持った建築物(例:教会)、という都市空間におけるスケールのギャップであり、その空間スケールの違いをボルネオ・スポーレンブルグ地区へと応用したのである。高密度なボルネオ・スポーレンブルグ地区内に3つの大スケールな建物を配置することにより、その地区を新しくも身近に感じやすい空間へと再構成した。
都市と川との関係性においてまず問題視されているのは、ウォーターフロントが都市化されることにより大洪水が川にそって起こるということである。オランダのフェンロという水辺都市では、都市内を流れる川に通常の60倍の水が流れて川周辺の地域に洪水が起こる危険性をはらんでいる。そのため、使用されていない川沿いの倉庫などを取り壊し、増水した際に貯水できるような空間へと変えられている。通常その空間は緑地となっており、開放的で心地のよい川沿いの空間を提供することにもつながった。また、水位の変化をデザインの中に取り入れる考えもあり、水をポジティブに捉えてデザインの中に有効に組み入れていこうという動きがオランダで見られるのである。

 

[図1 オランダ水辺都市の系譜]
[図2 シモン・ステフィンによる理想都市]
[図3 ロッテルダム・ウォータープロジェクト]
[図4 リング・シティ]
[図5 水位変化をデザインへ採り入れるアイディア]
   

 

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