「沿岸環境管理の民間管理の可能性」 横内憲久(日本大学理工学部海洋建築工学科教授)
日本国内で最も早い時期にウォーターフロント開発(沿岸域整備)を唱導され、日本国内で唯一のウォーターフロント開発専攻の学科コースを作り、その中心として活躍されてきた横内氏より、日本のウォーターフロント(沿岸域)の整備・管理がこれまで「官」中心に行われてきたことの利害得失を踏まえ、今後の整備・管理、ミティゲーション等をNPOや民間機関を含めたいかなる主体、手法で行われるべきか、また実現のため必要となる制度面について報告がおこなわれた。
1.海岸域の「沿岸域総合管理」の必要性
アメリカの国土面積は日本の約25倍であるが、海岸線の長さは約1.6倍しかない。島が多いということもあるが、いかに日本の海岸線が長いかということである。しかしながら、アメリカや韓国、中国には海岸線の管理のためのコースタルゾーン法があるが、日本にはない。
日本沿岸域学会では、沿岸域を、海岸線から陸側に植生限界である100m、海側は藻場限界となる水深20mを、環境・利用を考える上でコアエリアとしている。水深20m以下は3万km2あるが、多くが埋められている。国の領海や50mまでの海岸保全利用区域しかなく、漁業法では1000mまで漁業権があるが、海に行政界がないのが一般の国民の海への意識の薄さの要因として大きいのではないか。法律、仕組みづくりには市区町村界が現実的といえる。(図1)
汚染などが発生した場合、自治体や国を超え影響が発生する。個別法はあるが沿岸域やウォーターフロントとしての一括した包括的な法律がない。国においては1998年「沿岸域の管理」を5全総で謳った。2000年には経団連でも21世紀の海洋のグランドデザインで「沿岸域を豊かにする」と決めた。日本沿岸域学会でも「沿岸域総合管理法の制定」をアピールしている。
2.環境PFI/プライベートビーチ制度
東京湾は、明治から急速に埋め立てられた。人間が壊したものを再び人間の知恵で人工の海浜や干潟を再生するのも一つの選択である。しかしながら、政府も自治体も今は財政的に逼迫している。そこで提案しているのが利用者からお金をとる仕組みであり、環境PFIである。環境創造事業の促進は21世紀型の環境の考え方である。イメージとしては直立護岸に砂を入れ、海浜や藻場をつくる。海浜は利用料をとる。さらにニースやカンヌのように沿岸の施設と一体に使わせると収益事業がうまれる。こうして環境創造事業のサイクルが生まれる。しかし、障壁も多い。沿岸部には、港湾法、公有水面埋立法、漁港漁場整備法、陸側には都市計画法、建築基準法、河川法、海岸には海岸法や国有財産法、海側の漁業法などがかかっており、一番タフなのが漁業権である。漁業権は放棄しても生活権として漁をする権利があり、埋め立てのたびに何回もお金が支払われている。(図2)
環境PFIに関して海岸線に面する49の自治体にヒアリングを行った。基本的には賛成であるが、全面的な権限委譲は不可であった。事業サイドであるゼネコンにもヒアリングを行った。基本的に儲かればやるということであった。
環境整備の資金調達のため排他的に利用できるプライベートビーチを設定したらどうかと考えている。沖縄では海浜地は公有地であるが、ほとんどプライベートビーチそのものである。ホテル自身で維持管理を行っているケースが多い。ホテルにとって海岸線は商品だからである。一方で、海岸を私有地化できないという条例がある。ホテルへのヒアリングでは、衛生管理や資源管理は義務としてやるが、入場料を取るなどの権利を与えて欲しいなどの声もある。
3.沿岸域におけるミチゲーション制度の実施
税金にだけ頼らず、開発と保全の両立を図るのがミチゲーションである。これは環境保障制度でアメリカでは1970年から実施されている。開発行為に対しアセスを行い、一定規模以上に対しかかる。最も厳しいのが「回避」であり、行為を全部または一部行わないことにより影響を回避することである。次が「最小化」である。これは規模を小さくすることである。そして移転または代替しうる資源環境提供の「代償」である。(図3)
日本では土地が狭いので代替や地理的条件から生態系の復元は難しく、そのままの導入は難しいが環境PFIの促進に利用し、ほどよい海岸が出来るのではないかと考えられる。
代償ミチゲーションの支援システムとしてミチゲーションバンキングがある。代償ミチゲーションに開発がかかった場合、代償地が必要になる。緑や生態系が根付かない場合もある。アメリカの場合、根付くまでやらせる場合がある。安全な方法としてバンクサイトからすでに根付いている代償地を買ったり、借りたりする。ミチゲーションバンクはひたすら緑を植え、バンクサイトをつくる。ミチゲーションバンクは民間でも、一人でもできる。
日本では埼玉県の志木市がミチゲーションバンキングらしきことをやっている。自然再生条例である。しかし、対象は公共事業だけである。志木市は東京のベッドタウンとして発展し、緑が激減した。しかし、8割は民有地なのでどこまで広げられるかが今後の課題である。 |