「スウェーデンの分権社会」
発表者:伊藤 和良氏
川崎市経済局産業振興部産業振興課
近年、日本において分権社会を目指す方向性が示されている。その具体的な内容は未だ不透明なのが現状である。欧米各国での先行事例をみても、国からの財源移譲という財政面だけでなく、市民と行政との関係のあり方の変革も必要不可欠であると認識されている。スウェーデン・ヨーテボリ市では、60から70年代の経済成長から、オイルショックによる造船業の破綻が原因で地域経済が危機に直面した。その後、造船業の崩壊から、サイエンスパークの建設など新しい産業により復活した。ヨーテボリはスカンジナビア最大の港湾都市であり、また「ボルボ」「サーブ」といった大企業が立地する地域において、「環境自治体」かつ「産業創造都市」として常に新しい施策展開が行われている。政治・経済、そして人々の文化的側面を織り込みその経緯と現状を、スウェーデン・ヨーテボリ市を中心に川崎市とを比較し、これからの分権社会の考え方と方向性を示した。
スウェーデンでの分権社会の特徴は、委員会を地域特性に応じて自由に作ることができることにある。ヨーテボリ市では、45万人の人口を21の地域に分けて地区委員会が作られ、医療・高齢者問題・環境など地域の問題に対する権限と財源がコミューンから委譲されている。地区委員会は議員からなり、そのトップはすべて政治家であるが、市議会議員はボランティアで、交通費など実費のみ支払われる。
スウェーデンの政治史は、社民党が1932年から1976年まで、政権を担い続けてきたが、社会民主党を中心とした左派と、穏健統一党という右派の保守系と革新系が拮抗しながらこの国をつくってきた。政治的解決手段である「コンセンサスポリティックス」を基本に、市場経済原理のもと、平等社会や完全雇用を達成しようとしてきた。ヨーテボリの市議会でも、同じように社会民主党、環境党・緑が政権を担っている。社会民主党は労働、環境党は、大気の問題など環境を中心としている。
現在川崎市では、分権社会を目指し具体的に日本の法制度の枠内において制度改革が成されている。一つは、オンブズパーソンの見直し。地元のNPOと連携し、従来の行政が行ってきた法制度の調整を、市民間の調整をするというように考えを変えた。二つ目に、斜面緑地の問題、建築基準法が改正されて、地方自治体の権限の範囲内では情報を早く流すことに重点をおき、ローカルルールを作る組み立てがなされた。三つ目に、区役所改革である。スウェーデンにおける地区委員会というものを、日本の地方自治法の絡みの中で、どういう風に作っていくか。自治体の中に市民社会の息吹を入れ、横割りでつなげていくのが官の役割としての課題を担っている。
参考
伊藤氏著作
『スウェーデンの修復型まちづくり−知識集約型産業を基軸とした「人間」のための都市再生』新評論、2003年
『スウェーデンの分権社会−地方政府ヨーテボリを事例として』新評論、2000年
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