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「ロンドンの水辺再生−フローティング・ヴィレッジへの挑戦」

日時:2009年11月11日(水)18:30〜21:00:00〜18:00
場所:法政大学デザイン工学部 マルチメディアホール

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ロンドンの水辺再生―フローティング・ヴィレッジへの挑戦
Chris Wainwright
(ロンドン芸術大学教授・映像アーティスト)

 近年、水辺に注目した再生が東京でも試みられ、水上カフェテラスの設置や、水上ジャズコンサートなど、特に水上での活動が始まりつつある。このような動きの中で、もっとも大胆に水上を利用している活動が、イギリス・ロンドンのテムズ川で行われている。今回の講演会では、それを中心的に担うロンドン芸術大学教授で映像アーティストのクリス・ウェインライト氏を招き、ロンドンの水辺再生プロジェクトについてお話を伺った。通訳はロンドン芸術大学の東京の事務局であり、ウェインライト氏と様々な活動を行っている井出玄一氏にお願いした。
 講演会では「Hermitage Community Moorings(略称HCM)プロジェクト」という桟橋を活用したフローティング・ヴィレッジが紹介された。これは歴史的な船を保存するために住宅の機能をもつ船に改修し、さらにその船を停泊させるために古い桟橋を再生するというプロジェクトである。わずか5年間で船の修復、桟橋の購入、権利の獲得から実施までを見事に実現した非常にアグレッシブな活動である。
 このプロジェクトが実現した、テムズ川のエルミタージュ(Hermitage)という地区は、倉庫街として物資輸送の拠点であった(図1)。もともとロンドンは交易で栄え、テムズ川は舟運が活発だった。19世紀には、約2000隻の貨物船がテムズ川に停泊し、対岸まで船を伝って歩いていけることもあった。しかし、20世紀に入ると、世界中の他都市と同様に、ロンドンの物資輸送は船から、鉄道、トラック、飛行機にとって代わられた。20世紀末になると、船はテムズ川から姿を消し、川沿いの倉庫は高級なアパートやホテルに変わり、さらに周辺には高層オフィスビルなども建ち、川岸の風景は次々と姿を変えていった。もはや川は実用的に使う場所というより、眺める場所、もしくはレジャーで使う場所になった。
 このような歴史的にも重要な場所に位置する老朽化した商業用桟橋を、民間業者から2004年に購入し、そのまま商業目的の許可証を譲り受け、係留権も購入した。このプロジェクトにとって重要なことは、ロンドンの中心で船上に、かつ公的に認められて住むことである。そのため、桟橋の使用許可を商業目的から居住目的に変える必要があった。桟橋を管轄する港湾局のサポートによって、約1年後に住居目的で許可が下りた。
 また、図2に見られるように、購入した当時は桟橋と陸との接点がなかったため、橋をかける必要があった。この橋は陸側の行政の管轄になる。しかし、彼らは川に人が住むという前例がなかったため、まったく理解を示さなかった。さらに、イギリスでこのような許可を得る場合は、住民の代表者が集まるコミッティー(Committee)という委員会を通さなければならない。ところが、桟橋周辺の高級なアパートの住民たちが多くクレームをつけてきたため、コミッティーはこの申請を却下した。そこで、ウェインライト氏たちはこの決定に対して市に異議を申し立て、さらにいくつかの提案を提示した。そして最終的には2006年に許可を受けることができた。この時、以下のようなことを市当局に主張している。
・ 歴史上の価値ある船を保存するための桟橋をつくる
・ 川の再利用をする
・ 教育的で文化的な、周辺地域の人が使える施設にする
 図3は桟橋全体の鳥瞰図である。赤色の箇所は、一般の人が使用できる部分を示している。図面右にある陸と桟橋をつなぐ橋や、中央の小屋の部分にも外部の人が入れる。また、右下の赤色の船のある桟橋は一般向けになっており、世界中どこから船で来てもこの桟橋に常に係留できる。このプロジェクトの目的の優先順位としては、ボートを停泊して住む場所をつくる、周りの住民の人たちが使える、ロンドンの外から来た全ての船が利用できるという目的が挙げられる。
 2009年3月、ついにプロジェクトは完成し、盛大にオープニング・パーティーが行われた(図4)。現在では、一般公開の日が設けられ、色々な人々が訪れる。今となっては、当初反対意見であった桟橋周辺の高級マンションに住む人たちも遊びに来る桟橋になっている。
 この5年間に渡り、かなり大変な苦労もあったようだが、今ではロンドンでも最高の景色を誇る桟橋となり(図5)、川の活性化に貢献してきた。また、未来の川の使い方を様々な人に知ってもらう機会となっている。

[図1 フローティング・ヴィレッジの位置]
[図2 桟橋購入時の様子]
[図3 桟橋全体の鳥瞰図]
[図4 オープニング・パーティーの様子]
[図5 フローティング・ヴィレッジの夜景]

 

   

 

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