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風景に関する研究交流会

日時:2006年11月14日(火) 18:00〜21:0013:00〜18:00
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナードタワー7階 工学部市ヶ谷研究室

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「トスカーナ州における文化的景観の研究−オルチア渓谷の事例から」
パオラ・ファリーニ(ローマ大学建築学部都市計画教授)
オルチア渓谷は、5つの自治体が協力してつくりあげた自然文化公園で、地域再評価のモデルとなるものである(1)。ここでは、「認識、保存、評価、プロモーション、コントロール」という順序に則ったマネジメント計画により、現存する資源の保存と持続的開発を推進していった。文化的価値の範疇を広げるとともに、それらを総合的に活用していったその戦略を見ていこう。
オルチア渓谷の自然文化公園は、シエナ県南部、ラツィオ州の境界に近い5つの自治体からなり、62.82%の農業地帯と36.59%の森林地帯、僅かな都市部によって成り立っている。ここには岩山を含んだ中世の風景が現在まで続いており、その風景は中世にシエナ派の画家によって描かれた絵画にも「善政・よき管理運営」の象徴として描かれているものである(2,3)。当時の人々が政府の指導のもとに農業を促進し、同時に美しい風景をデザインしていたことが伺える。
この地域における文化的資源を言えば、ローマからフランスへ向かう重要な街道をコントロールしていた町や、教皇によってルネサンス化が進んだ小さな町、教皇とシエナの対立の影響を受けて丘の上で対立した町など、様々な町がある。個々の建築においても、ロマネスクの教会や小麦畑にある小さいが重要な教会、中世後半からルネサンス期に小高い丘に建てられ、周辺の農業開発の基点となった農場、街道沿いの要塞化した病院、メディチ家の庇護のもと16世紀後半に建てられた宿泊施設など多岐に渡る。この公園の計画においては、それらシエナ県全体に広がる文化的資源をリストアップし、その場所や特性を分析した。そして、区域ごとにそれらのリストをデータ化していった(4)。このような動きを促した法律が「自然文化公園、自然保護区、地方自然保護地区に関する基準(ANPIL)」である。これは、5つの自治体が全体のマスタープランを尊重しながらそれぞれのマスタープランを定義することを促進するものだった。
これを元にオルチア渓谷の自然文化公園の制定が進む。1988年に5つの自治体の総合ドキュメントを作成し、'89年にはシエナ県全体計画が作られ、県から専門家の派遣や経済的援助が行われた。さらに、'96年にはオルチアの憲法が作られ、'97年シエナ県と5つの自治体の同意による協定により環境・地域計画の骨格が作られ、'99年にはトスカーナ州に認められたのである。これらの法律に基づいて、オルチア渓谷における組織と運営が整えられた。
以上のような文化的資源の認識、保存、評価の後に、様々なプロモーションが行われた。そこでの目標は、1:観光ルートの整備など、歴史的・文化的に価値あるものを再発見しながら観光を発展させること、2:質が高く特徴がある農業製品を評価し直し、地域のブランドとして販売していくこと、3:地域の小さな企業を支援し地域文化を育てるとともに、国際的に通用するアグリ・トゥーリズモ(農業観光)を地域のキャパシティに即して展開していくことである。それらをもとに、1999年からは環境と景観の保護、地域全体の管理、都市計画と公共事業、観光の促進、文化とイベント、特産物の奨励、高齢者のための施策の実行、5つの自治体の連携によるサービスの向上、以上8つの柱で活動している。
実際に1996年から2004年の間に実現されたプロジェクトは、フェスティバルや道のネットワークの整備、個々の建物の整備など多岐に渡る。それらの活動を支える財政は、地元の自治体のほかに、EUからの補助、地元の銀行、民間の投資を主として成り立っている。
以上の取り組みの結果、様々な成果が生まれている。かつては放棄されていた地域や農業の景観が、現在は保護を基本に全て生産的に管理されており、道の回復や整備も行われている。個々の価値ある建築も、周辺との関係を考慮しつつ修復された。なかには、広場が温泉になっている所もある(5)。さらには、自転車のトレッキングコースの整備や、16世紀の庭園を現代アートの場に活用している例など、多岐に渡る。また、このような地域の価値向上を背景としたツーリズムの促進によって観光客が増加し、既存建築の修復による宿泊施設が増えている。更に、長年農業地域を悩ませてきた過疎化が止まり、若者の担い手も目立ち始めている。これらの民間による経済活動は、徐々に公共のサポートから自立し始めている。
そして2004年、オルチア渓谷地域はユネスコ世界遺産に登録された。その理由は、中世の風景の再評価・再編成した優れた例で、「善政・よき管理運営」の理想とその美的探究を示していること、そして、この形態美が後の景観思想の発展に寄与したことである。これは、優れた管理運営による経済活動と、景観美が共に評価されたことであり、エコノミーとエコロジー双方の面からの評価と言える。このように継続した活動によって生み出した成果は、住民の共通意識をつくりあげ、現在のオルチア渓谷における地域活動を支えている。

[図1 オルチア渓谷自然文化公園]
[図2 岩山の風景]
[図3 中世の絵画]
[図4 データリスト]
[図5 広場の再生]

 

   

 

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