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2006年度国際シンポジウム
「アジアの都市再生III −蘇州・上海−」

日時:2006年7月15日(土)13:00〜17:00
場所:法政大学市ヶ谷キャンパス 80年館7階

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「歴史都市の水循環とその再生 −江南水郷都市の蘇州を例に」
阮儀三
2500年あまりの歴史をもつ蘇州は豊富な水系のネットワークで構成された水郷都市である。蘇州はその立地特性を生かして、人工的に開削された河道水系と格子状の道路系統が密接に結びつき河と道路が平行に走る二重の碁盤のような都市構造をもっている。蘇州の魂である水は都市の気候環境を調節、改善し、都市の美化、消防、畜排水および冠水防止などの重要な働きをしてきた。しかし1950年代以降、水質汚染、陸上運輸の発達などから水路を埋め立てはじめ、それに伴い都市内冠水が頻繁におこるようになった。
近年にいたり、水路、城壁の保護再生をすすめ、景観の維持など蘇州の歴史的風貌がよみがえっている。工業地区は外へ、水、緑は内へという理念で文化、観光事業と産業活動を両立させ、GDP成長率は国内5位という成果をあげている。蘇州の景観の基本要素である水についていえば、2000年には大面積、多方面にわたる護城河の保護整備工事が始まり、3年をかけたこの工事は多大な成果を上げた。護城河両岸には48景がつくられ、20の橋が架けられ、歴史都市の臨水環境の再生の模範となった。また古城区の歴史的風貌を取り戻すだけでなく、生態系の保護を目的とした都市生態保護区も定めている。ここでの景観設計は自然条件を考慮し、なるべく人工的な建造物をつくらず、親水空間を提供する場所とする。蘇州とは水であり水環境を保全することが歴史的な蘇州の個性を残すことになる。
また蘇州の周りには周庄、同里などを代表とする非常に水環境の良い城鎮が点在している。鎮の建物の大半は明清期の古建築で、長い間修理もされず、すでに朽ち果てているものもある。また現代的設備にも乏しく、経済的にも近隣郷鎮に劣っている。1985年、こうした古鎮において保護計画をつくり始めた。古鎮の整備に協力し、観光事業を発展させたことで古鎮の歴史的価値が認められ経済も活性化し、住民生活も改善してきた。また歴史的景観を保存することのみではなく、電線の埋没、下水溝のような現代的な設備の整備をすすめることも重要な事業である。さらに、酒造や醤油造などの各水郷都市の産業的特色、祭り、水上結婚といった文化的特色の保護も非常に重要である。それらは各都市の個性であり、個性を活かして再生することが都市再生にとって非常に重要なポイントであると考えている。
しかし、美しい景観を取り戻し、観光事業に重点がおかれると人が集まり過ぎ、住環境を悪化させ、土産物屋しかないような街になってしまう。また、歴史的な考慮のされていない、まがい物がつくられるようになってしまうという問題がおこっている。観光と生活の共存こそこれらの水郷都市の永続的な発展につながると確信し、実践していかねばならない。

[蘇州古図]
[自然は内へ工業は外へ]
[蘇州の水景の復活]
[古鎮の景観保存]
[文化保護、水上結婚式]

 

「上海 都市遺産の保存と再生 −水辺の産業遺産を中心として」
張松

呉淞江(蘇州河)、黄浦江は「上海の母なる河」と呼ばれている。古代、上海は呉淞江で生まれ、近代上海が発展したのは黄浦江のほとりであった。上海は中国における近代工業の発祥地である。開港後、外国資本は工業生産の領域に速やかに入り込み、各種の工場を建設した。1850年代には造船所が建設され、1894年の馬関条約により日本およびその他の国家が中国での工場建設を許されてから外国資本の工場が迅速に増加していった。1930年代になると工場の総数は全国の半分以上を占め、各種工場が10000あまりあり、工業生産、交通運輸、給排水などの条件からそれら工業建築は蘇州河の北岸と黄浦江の西岸に集中した。
1986年国家歴史文化都市になった上海は歴史的文化財の保護に力を入れ国の重要文化財が16箇所、上海市の重要文化財が114箇所指定されている。さらに上海市は独自に優秀歴史建築としてこれまでに632箇所、2138棟、総面積480万m2を文化財指定、保護してきた。
また、2002年には「上海市歴史文化風貌区と歴史的建築保存条例」が公布された。それまでの条例との大きな違いは、築後30年を経過しているものは保護対象にすること、工場、倉庫などの産業遺産も保護対象とすること、建築個々のみならずエリア的な保存を重視していることが特徴として挙げられよう。これに沿って2003年9月には外灘など12箇所の「歴史文化風貌区」を設定した。
しかし、歴史文化風貌区に指定されていてもすでに建てられてしまった高層建築や近年の急速な開発によって風貌区が危機にさらされていることも事実である。2003年、市委、市政府も「建立再厳格的歴史文化風貌区と優秀歴史建築保護制度」というさらに高い目標と要求を提出している。これは保護と開発の並存、都市の歴史文化を広めることを強調し、建築の保護が都市計画の重要な部分であり、計画の前段階における最重要課題であることを示している。
産業遺産の保護、再生は上海において現在最も重要視されている事柄といえよう。優秀歴史建築の認定の中でも年々その全体に占める比重を増している。その歴史的、建築的価値に関しても長年の努力が実り、ようやく認められてきた。現在、蘇州河の両岸では古い工場をリノベーションしてデザイナーのアトリエとしたり、ファッションモールにしたりと産業遺産の再生が進んでいる。
今後は上海郊外の産業遺産も重要な保護の対象になるだろう。同時に開発を進める業者を抑制することも必要になる。
今後の課題としては、大部分の歴史的建築の保存状態がよくないということ。また歴史的建築を再生し、そこに住むということになったときに生活環境を改善するという意識がまだ低いということが挙げられる。日進月歩で変化する上海という都市において統一された景観規制を設けることは難しい。新しい建築をつくる際にも歴史的都市であることを意識することが重要である。2010年の上海万博を控え、大規模な開発計画が進んでいる。まずはこの開発に対して、歴史的遺産の保護計画をたてることが急務である。

[歴史文化風貌区]
[外灘の近代建築群]
[産業遺産分布]
[再生例、都市彫刻芸術センター]
[上海万博計画]
 

 

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