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マルグリッド・ケネディ氏セミナー
「エコマネーの展開と展望」
補完的な通貨 〜持続的な発展のための新たな途〜

日時:2004年12月21日(月)13:30〜17:00
場所:法政大学市ヶ谷ボアソナードタワー25階A会議室

主催:法政大学エコ地域デザイン研究所
   日本建築学会:地球環境委員会 地域共生小委員会
協力:独立行政法人 都市再生機構(本社設計課)
   NPOパーマカルチャー・センター・ジャパン

定員:50名
参加費:無料

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地域社会の自立性を確保するための地域通貨(エコマネー)が現在注目され、世界各地で展開され、日本でも地域再生の経済手法としても注目されています。今回は、世界的な地域通貨に関しての提案をしている、独のマルグリット・ケネディ女史を招いたセミナーを企画しました。ケネディ女史はヨーロッパでのエコビレッジ運動のリーダー的存在で、独の北部でエコビレッジを建設し、そこに暮らす建築家です。世界におけるエコビレッジ運動や地域通貨運動についての最新情報を紹介していただきます。

 

プログラム

13:00 開会 司会:神谷 博(法政大学兼任講師、建築家)
  挨拶 陣内秀信(法政大学教授・同エコ地域デザイン研究所所長)
13:30 講演 マルグリット・ケネディ女史(独、建築家)
    通訳:設楽清和(NPO法人 パーマカルチャーセンタージャパン理事)
15:30 質疑
意見交換
 
17:00 閉会  

Prof. Dr.マルグリッド・ケネディ氏 略歴


1939年、ケムニッツ生まれ。ダルムシュタットで建築を学ぶ。ドイツ、ナイジェリア、スコットランド、米国で建築家、都市計画家、エコロジストとして活躍。1972−1979年、ベルリンにある州立学校建設研究所、OECDおよびUNESCOの依頼で「共同体センターとしての学校」というテーマで、欧州15か国及び南米・北米における調査を実施。
1987年にベルリンで開催されたIBAでは1979年から1984年までエコロジーとエネルギー、及び女性プロジェクトで中心的な役割を担う。翌年カッセル単科大学の都市エコロジーの客員教授に就任。それ以降、ニーダーザクセン州シュトイヤーベルグで住人、150人のエコモデルプロジェクト建設に積極的に参画。1991年、ハノーバー大学教授として建築学を教える。同大学で2002年まで、「建造物の改修技術と省エネルギー建築」学部を創設。
数多くの調査報告書のほか著書を発表。主な作品は次の通り。
「The Inner City」(1972年 Elek ロンドン)
「Community School」(1979年 UNESCO パリ)
「都市のエコロジー」1、2巻(1984年 Fisher フランクフルト)
「利子のないお金とインフレーション〜だれにでも役立つ交換手段」」(1991年 Goldmann ミュンヘン)「ハンドブック エコロジカルな集合住宅の建設と改修」夫デクラン・ケネディ教授との共著(1998年Reimer出版社 ベルリン)
これまで手掛けてきたエコロジー関連のプロジェクトを通して、金融システムに対する人々の誤解がエコロジーの原則のより広範な適用を妨げているとの認識に導かれ、1987年以降、インド、コロンビア、アルゼンチン、ニュージーランド、ドイツなど世界の国々において大学や労働組合などで、金融システムに対する人々の誤解についての講演ならびにコンサルティング活動を精力的に展開。2002年秋以降は、全ての仕事をこのテーマに絞り、活動を続けている。

■ケネディさんの出発点
エコロジーはなぜもっと広く普及しないのか
エコロジーの普及を阻む問題の根源は現代のお金のシステムにある。
■2つの相矛盾するお金の機能
 1)交換手段
 2)価値の保存手段−利子による蓄財
・矛盾点
 交換手段としてのお金は人間の素晴らしい発明であり、正しく仕事を配分するための前 提であり、文明の基本ともいえる。ところが、価値の保存手段としてのお金の特性は物やサービスを得るための交換手段としての役割を妨害する。つまり、蓄財によってお金の流通が不安定になり、交換手段としてのお金の流通が妨げられる。実際に、物やサービスとの交換は世界の経済行為のわずか3%に過ぎず、あとの97%は投機目的で使われている。
・利子は経済システムのがん
 利子は指数級数的成長をする。はじめはゆっくりと、徐々にテンポを早めて増殖し、最後は垂直的な成長を遂げて、社会を滅亡に導く。それは丁度がん細胞の成長過程と似ている。
・隠れた利子
 私たちは利子を払うのは借金する時だけと思いがちだが、実際はそうではない。消費者が日々購入する製品やサービスの物価にも利子は含まれている。つまり、製品の生産者やサービスの提供者が機械や設備を買うために銀行に支払わなければならない利子が商品の価格に含まれているのである。
■解決策としての地域通貨
お金の機能を交換手段1本に絞り、利子のつかないお金(=地域通貨)を流通させる。
・自然な成長曲線の導入
 人間に巣くった癌細胞のように1つの細胞が2個になり、4個、8、16、32と指数級数的に成長する利子は、癌細胞の成長が有機物の死をもって終わるように、社会を破滅へと導く。この病的な「指数的成長」と対照をなすのが「自然な成長」である。自然界の生物に見られる成長過程の速度は初期の段階では非常に速いが、次第に遅くなり、一定のところまでいくとそれ以降は止まる。人間の場合、肉体的な成長は21歳位まで続き、それ以降は内面の質的な変化が続く。貨幣システムの中にこのような健康的で自然な成長曲線を導入できれば、エコロジーや経済学が長年にわたって求めてきた社会の質的な成長が実現できるのではないか。
・利子のつかない通貨
 例えば100円で買ったリンゴはそのままにしておくと次第に腐って価値がどんどん減っていくのに対して、100円というお金の価値は変わらない。お金もモノと同じように使わないと減価するシステムにすれば、蓄財のためにお金をため込むこともなく、安定したお金の流通が促進される。こう考えて補完的な通貨として、利子のつかない通貨の流通を考えたのが、ドイツ系アルゼンチン人の実業家、シルビオ・ゲゼルだった。彼は1916年「自然的経済秩序」を発表し、減価するお金、自由貨幣(消滅貨幣、スタンプ貨幣)を提唱した。
■ケネディさんの提案
・現在の貨幣システムについて
 現在の段階的な利率の全体をゼロのレベルまで押し下げる。つまり、長期の金利が0または±1になるようにして、現金、普通預金、短期の金利は上げる。それによって長期の預金はできるが、利息は付かないので、安定したお金を作り出せる。大事な点はインフレなどでお金の価値を減らさないこと。そのためには各銀行がお金を持ち過ぎている時は中央銀行にそれを戻し、足りない時は中央銀行から提供を受けられるようにする。これによって各銀行は必要なだけのお金しか手元に持たないようになり、それによって資産運用する。
・個人レベルでできること
 お金に対する意識を変える。例えば、自分のお金が倫理的に問題のない生産物やプロジェクトに投資されるように心掛けること、自分が購入する生産物が環境にやさしい方法で社会に問題を引き起こさない方法でつくられているかどうかをチェックする
・地域通貨の発行
 モデル実験として地域に固有な地域通貨を発行し運用する。
小規模な通貨単位が現行の経済システムを直接的に変えることはないが、その地域の経済の安定化に役立つ。また、草の根レベルで交換手段としての機能だけに絞った固有の通貨を実際に体験することは、将来の変革に向けて大きな力になるはず。
■地域通貨が備えるべき条件
 地域通貨は合法的であるだけでなく、現実的に導入しやすく、すぐ人々からの信頼を得られなければならない。そのためには次の3つの要素が相互に結び付いていなければならない。
1)地域の支払い手段として使える引換券システムであること。
  最初の実用化テストはキームゼーのプリエンという町で実施された。ここで発行され、運用された地域通貨は、「キームガウアー」という名前がつけられた。
2)物品やサービスの交換が現金を使わずにできる差引勘定ならびに信用システムとしての協同リングであること。
  大事な点は産業界と専門的職業人の間でも流通され、中小企業の流動資産を高める機能を持ち、同時に地域住民の間でも相互に差引勘定できるような機能をもつことにある。
3)持続的、安定的であり、かつ成長を頼りにするのではない預金および信用モデルの原則にしたがって機能する会員制銀行であること。
  会員は預金計画とセットになった無利子のローンを受取る。このモデルは約40年前からスウェーデンに存在している。
さらに以下のような機能の組み合わせによって地域における通貨としてのすべての機能が満たされる。地域通貨はユーロの対極にある。
・公式な支払いのための手段ではない。つまり、受け取りを強いられることはない。受け 取るかどうかはあくまでも自由意志に任される。
・流通の範囲は地理的に限定し、それぞれの地域ごとに独自の通貨名を設ける。
・他の地域通貨や他国の地域通貨との交換の際に交換料金が発生する。
・利子は付かない。
■地域通貨はユーロを補完する
 地域通貨の導入はグローバリゼーションのマイナスの結果に対処しうる方法の一つである。地域独自の通貨を流通させることによって、独自の利益と潜在性をもつ経済空間としての地域を強化する。それ以外にも地域通貨は、地域の文化的なアイデンティティを守り、食料品の地産地消を促し、運送距離を短縮するというエコ的に重要な意味を持つ選択肢を提供し、目の届く範囲の限りある資源の倫理的な利用を促すなど、必要とされている社会的な要請を補完する。ユーロが国際的な取引や競争、指数級数的に成長する利子や利益配当を伴う貯蓄預金や投資による資本の蓄積と再分配に適しているのに対して、地域通貨はこれに参加するすべての人々に利益をもたらす。地域通貨は地域経済循環の自明の要素として長期的なインフレやデフレの危険を弱め、未利用の資源の需要を掘り起こし、循環が保証された地域共通の支払い手段を提供する。地域通貨の発生過程は分かりやすく、その運用は地域住民によって民主的にコントロールされる。
 大事なのは、地域通貨が低賃金の国々からの資源の流出とこれらの国々が税金天国になるのをくい止める可能性を持っている点にある。それによって、失業を生む企業移転を阻止できる。
ドイツにおける初めての地域通貨
地域通貨はユーロに取って代わるのではなく、これを補完する。地域通貨は従って、オルタナティヴではなく、「補完的」な通貨である。
 「キームガウアー」はドイツで最初に導入された地域通貨である。地域通貨を率先して流通させたのはキ−ムゼ−湖畔のプリエンという町にあるシュタイナー学校。「キームガウアー」は補完的な交換手段として構想され、引換券モデルとして運用された。この新しい交換手段を最初に購入したのは、シュタイナー学校の父母たちだった。彼等はそれによって学校の増築を支援した。その間にも5つの公益的なプロジェクトが計画され、それに参加する人たちが地域のあちこちから集まった。そのことからこの通貨の利用者たちは毎年8%の使用料金を支払うというかたちでこの通貨の安定的な流通を受け入れたのである。つまり、その価値の2%にあたる1マルクのシールを3ケ月ごとに引換券の上に貼り、それによってその価値を維持したのである。
 支払いを引換券で受けた商人たちは国の通貨に換えることもできるし、また他の店や従業員への支払いや地域の新聞を発行している出版社への支払いにこの引換券を使うこともできる。
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以上の記述はケネディさんの“Geld f■r die Menschen statt Geld f■r  Banken”( Teil−1,2 2004年)をまとめたものです。文中の「ケネディさんの提案」は「エンデの遺言」河邑厚徳+グループ現代著(NHK出版)2000年をベースにしてまとめました。                          (資料作成:大沢幸子)

 

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